Master Thesis - 修士論文 -

SDC3plus
修士論文 (京都大学, 2008年度)
『Ξハイパー核分光実験に用いるSksPlus用ドリフトチェンバーの開発』 (8.7MB) [pdf]

概要


核力をハイペロンを含むバリオン間の相互作用に拡張し、 これを統一的に理解することはストレンジネス核物理の最も基本的な課題のひとつである。 ハイペロンと原子核との束縛系であるハイパー核の構造を調べることによって ハイペロン-核子間、ハイペロン-ハイペロン間の相互作用の情報を引き出すことができる。 これまでの実験から、ストレンジネスをひとつ含む S = -1 の系(特にΛハイパー核) に関してはかなり精密な理解が進んでいる。 一方、S = -2 の系に関しては未開拓であり、特にΞハイパー核に関する情報はほとんどなく、 その存在自体はっきりとは確立していない。 ΞN 相互作用はバリオン間相互作用のSUf(3)での統一的理解に不可欠な要素であり、 Ξハイパー核の分光学的研究から確定的な情報を得ることが期待されている。

我々はJ-PARCにおいてΞハイパー核分光実験(J-PARC E05)を行う。 (K-, K+)反応を用いたミッシングマス分光法によって、 従来にない3 MeV以下のエネルギー分解能により、束縛状態のピーク位置を決定するとともに、 Ξの核内での強い相互作用(ΞN → ΛΛ)による転換幅の情報も引き出す。 このために、散乱粒子スペクトロメータシステムとしてSksPlusが考案された。 SksPlusは、高運動量分解能を誇る既存のSKSの上流に新たに双極型(D)磁石を追加することによって、 高運動量領域(1.3 GeV/c付近)においてもその分解能を維持する。 本論文では、SKSとD磁石の間に配置するドリフトチェンバーSDC3の設計と性能評価および、 シミュレーションによるSDC3の実験に対する影響の考察について述べる。

SDC3は、位置測定点の増加による運動量分解能の向上や、スペクトロメータのチューニングや、 全システムの位置合わせ等の役割を果たす一方、 多重散乱の影響により分解能を悪化させるという不利な点も有する。 チェンバーの設計においては多重散乱の影響を減らすように配慮し、 最適な電場分布が得られるようにワイヤー構造等を決定した。 性能評価においては、検出効率の測定により、最適な印加電圧を決定した。 また、信号の到達時間からドリフト距離を求めトラッキングをおこなって位置分解能を導出した。 今回の測定によって十分な検出効率と、280μm程度の実験の要請を満たす 位置分解能が得られていることを確認した。 また、SDC3のSksPlusの運動量分解能への影響をみるためにシミュレーションによって SDC3と運動量分解能の関係を考察した結果も示す。